理性もない下等な輩なのだろうか。複数匹が一気に襲い掛かってきた。その中に突っ込
みながら右手でダーツの矢を投げ一匹一匹の心臓部に命中させ前のめりに倒れてくるヴァ
ンパイアを風で吹き飛ばす。
 そして、後ろから迫っていた二匹ほどのそれを振り返り様首を撥ねた後、返り血を浴び
ないように立ち回り、手短にいた間抜けを足で蹴飛ばしてと、かなりな乱戦になっていた。
辺りは闇に包まれ、むせ返るような濃い血の匂いが辺りに立ち込めていた。
「町に五匹。行くぞ」
 アランが声を上げた。頷いてルランは旅立ちのときに浮かんだ過程を裏付けた。
 先に走っていくアランの後を追いかけてもう一度剣に目を移した。やはりそうだ。聖な
る加護を受けた剣ではない。
「二手に分かれよう。もう三匹教会に向かっている。教会にはお前が行け」
 ルランが告げると了解という意味か片手を挙げられてアランはまっすぐ教会のほうに行
った。ルランも五匹群がっている場所に向かい、銃で仕留めると教会のほうに行った。教
会のほうにはまだ二匹残っているらしい。
 走りながらアランに襲い掛かっていたヴァンパイアを仕留めるとアランと合流した。教
会の扉を開けると恐怖に引きつった顔で結界を張っているヴィラとその後ろにしがみつく
ように子供が連なっていた。馬はきょとんとこちらを見て首を傾げるように縦に振った。
「ルラン」
「よくやった」
 結界の中に入って怯えている子供の頭をわしわしと撫でてへたり込んでいるヴィラの尻
を蹴った。
「ほら、いい大人が何、腰抜かしてる」
 そういうと外を見やって舌打ちをした。アランの切羽詰った声が聞こえたのと同時だっ
た。
「おい、残党だ」
「わかっている」
 やや八つ当たり気味にヴィラの頭を叩いて入ってこようとしたヴァンパイアを蹴飛ばし
て子供の目に入らぬように銃で眉間を打ち、滅すると外を見て舌打ちをした。
「ちくしょう、村人全員か?」
「いや、それ以上だ」
「墓穴の中からこんにちわか。しゃれんなんねぇな」
 空気を切るような音と共に銃を撃ち腰の短刀で屠ると、怯えたヴィラの視線とぶつかっ
た。舌打ちして教会の扉をけり、閉めるとダーツを片手にルランは教会の屋根に助走もな
しに飛び乗った。
「おいっ」
「あたりたくなかったら中に入れ。埒があかない」
 両手にダーツを構えて投擲すると腰から銃を抜き一振り、そしてフルオート機能でもあ
るのだろうか、ただの早撃ちだろうか、銃声が一つに重なって何十発かが地上に刺さった。
「何めちゃくちゃしてる……?」
 ヴァンパイアが動かない事を不審に思ったらしい剣を構えつつ近づくとアランとルラン
を囲んでいたヴァンパイアの全てが地面に膝をつきうつろな目でルランを見た。そして、
その直後、その亡き骸は塵に帰った。
 ルランは教会の十字架の上に立ち、月を背負っている。そのたたずむ姿はさながら月か
ら降りてきた堕天使といったところだろうか。
「一丁上がりか」
 アランしかいなくなったその地面に軽々と降り立ち辺りを見回して溜め息をついた。
「何者だ?」
 その言葉にダンピールだといいかけたが関係がないなと思い直して肩をすくめた。
「言っただろ、一ヶ月ぐらい前まで旅をしてきた。狩の仕事をやってきたんだよ」
「何年」
「五年。十の時からずっと旅をしながらしてきた。これぐらいの芸当できなくては死んで
いる」
 そういうと背を向けて教会内に入った。アランの驚いた目が背中に刺さる。それを感じ
ながらヴィラを見た。
「お前……」
「まだ修行が必要だな。と、ちびは平気か?」
 怯えたようにこちらを見てくる子供の数を数えて一人足りない事に気づいた。
「後一匹……」
 不思議に思ったと同時に体が動いていたヴィラを右手で突き飛ばして子供から離すとそ
の間に体を滑り込ませてほぼ勘で左手に持った短剣をかざした。
「何を」
 アランの声が聞こえて遅れてヴィラがどこかの椅子にでも当たったのだろうか鈍い音が
聞こえ、その後にきんと金属と何かがかち合った。小さいながらも立派なヴァンパイアが
ルランに爪を突きつけていた。
「メイ」
 かすれた声が聞こえた。馬は興奮していななき、この危険な場から逃れようとしている。
 短剣をぱっと振って元に戻すとまず生き残っている子供の安全とヴィラの安全を確認し
たところで子供に押し倒された。あわててアランが駆け寄ろうとしてきたが一歩踏み出し
たが、ルランを押し倒したヴァンパイアの爪がルランの首筋を浅く切った所を見て唇をか
み締めた。ぴたりと足を止めたアランがルランをじっと見つめている。
「平気だ。こんな小物」
「強がりを言うねえ、お兄ちゃん」
「基、わからないお前が悪い。少々子供だと思って手加減していたがしないほうがよかっ
たな」
「減らず口を」
「それはどっちかな」
 肩をすくめて言うと魔力を右手の指先に集めてつめのように伸ばして一気に頭と胸と腹
を貫いた。そのままその中に魔力を注ぎこんで体の中を引っ掻き回して心臓だけ焼いた。
「あっう」
 そう呻くと力を失った。ルランは無感動な目で自分のほうに倒れてきた上体を突き飛ば
して教会の椅子にたたきつけると首の血をぬぐった。
「何が」
「なんでもねえよ。聞かないほうが無難だ」
 そう呟くと結界を解いた。子供達は何がなんだかわからないようだったがヴィラだけ倒
れそうなほど蒼い顔をしていた。
「お前……?」
 驚いたルランと反対にヴィラは顔を引きつらせながらルランの顔を見た。何があったか
が理解できたのだろうか。否、彼には見えていた。ルランの魔力が、小さな体の中を引っ
掻き回し臓器を壊す様を。
「あそこまで普通するか……?」
 その言葉に大体を悟ったルランは深く溜め息をついて目を細めて厳しい顔でヴィラを見
た。
 アランは何故ヴィラが顔色を悪くしてルランを見て怯えているのかがわからずに、ただ、
子供の前に突っ立っていた。
「……しなければ、俺が死ぬんだ。それより、ちびが先だ。アラン、ここを頼む」
「どこに?」
 立ち上がったルランは扉に向かい肩をすくめた。月光が少し差し込みルランの表情を明
らかにする。
「残党がいないか見てくる」
 そういうとルランは逃げるようにそこから出て行った。アランが見た表情は悲しみとも
呆れともつかない、不思議な表情だった。


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