手を強く握られたまま、あたしは無防備を通り越してあどけない寝顔にポカンとしなが
ら、そっと表情を歪ませた。
「…………」
 この人は、こんなときでないと、安らぎを求められないのだろう。
 胸が辛く締め付けられるのを感じながら、そっとその手を冷え切って大きな手を強く、
強く握り締めた。
「……、傍にいるよ」
 貴方が、夢で過去に囚われようとも、あたしと現実に、此処にいることには変わりない。
「あたしは、ずっと裕輝の傍にいるよ」
 しっかりとユウキの寝顔にむかって言って、あたしはユウキの髪を撫でた。
 ホントはわかってるんだ。
 ずっと夢の中で、あの人の名を呼び続けて、ユルシを請っているのを。
 でもね。といつか、言ってやりたい。
「でも、でもね。ずっと、……ずっとは辛くなぁい?」
 聞いていないから言葉に出来る事。くっと、ユウキのいじらなくとも形の良い眉が寄る。
うなされ始めたユウキの顔は辛そうな顔をしていないんだ。ただ。
 ――――ただ、とても、とてもカナシソウなカオをしているんだ。
「……裕輝」
 ふっと目を開けたユウキはポヤンと熱に潤んで弱弱しい瞳で、いつもでは見られないよ
うな表情で、視線をさまよわせて、あたしを見つけて片手をあたしのところ伸ばしてきた。
「…………傍にいて」
 掠れた声で、何もかもに疲れきったような声で、縋るように手を伸ばして、後悔という
自獄から抜けようとするのだ。
 少しでも、支えになるよと、あたしはその手を取って頷いた。さすがに笑顔を作れるほ
ど器用でもない。
「傍にいるよ」
 そっと、その身体を抱き起こして、抱きしめた。あたしといるその時だけは、あの孤独
を味わってもらいたくなかった。たとえるならば、青い炎を抱いた、冷たい牢獄。
「大丈夫。ここにいるよ」
 あやすように言うと、ユウキはこくりと一つ頷いて、ふっと表情を緩ませて、もういち
ど眠りに就いた。
 あたしも、朝早かったからだろうかな。眠くなって、ユウキを優しく抱きしめたまま横
になって眠ってしまっていた。



 
 
 ねえ、ねえ、君はどこにいるの?
 
 
 
      ――――――――――どこ?
                              
         ――――――――――何処?
         
                          ここにいるよ――――。
        
        ――――――どこ?
        
          ――――――ドコ?
        
            ――――――ドコ?

 ――――――ドコニ、イル?
                        
                        
                   ここにいるよ――――。
                     
 あたしは、ここにいる。
 
 ここに居るから、だから、……だから、
 
       そんな寂しいところから、ココにおいでよ。ユウキ――。
       
       
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