助祭に進級したルランは個人的に狩りの仕事を請けるようになった。新米だからと一日
一つの仕事を上限とされてむっとしていた。が、それも難なくこなしているうちに、二ヶ
月ほどの一通りの戦闘訓練が終わったらしいヴィラと試験的に組まされる事になったルラ
ンの機嫌は最悪だった。
「死んでもしらねーからな」
「えー、先輩が後輩を守るんじゃないの? 最初の頃は」
「んな面倒な事やってられるか」
 とロホの執務室から自室に戻る間にそんな話をして帰っていると部屋の前に一人の女と
リュイが何か親しげに話している。
「あ、来た」
 ふっと、リュイと話していた長い深紅の髪の女に何かを感じてルランはさりげなく顔を
背けた。
「この子達が、貴方の護衛する人たちです」
「護衛って」
 目を剥いたルランにリュイがにっこりと笑って女をさした。
「とりあえず、ヴィラは試験的だからね。総大司教様も考えてくれたようだ」
「本当にこの子供達がか?」
 不思議そうに聞く女に思わずルランの手が銃に伸びた。ちゃっかし後ろですぐ抜けるよ
うにしているルランの手を押さえてヴィラは顔を引きつらせた。
「そうそう、アランさん、て言うから。アンデットの葬送は国の事業としてやっているか
ら、お国の騎士様だ。粗相のないように」
「え、騎士?」
 女騎士など聴いたことのないと言いたげなヴィラにアランはふっと笑った。
「もう、騎士をやって五年経つ。その間、狩りの仕事や神官の護衛をやっていた。心配無
用」
 はっきり言うアランにヴィラがポカンと言葉を失っていると話に混ざっていないルラン
が呆けているヴィラの手を振り払ってさりげなくヴィラのすねを蹴った。
 息を詰まらせてすねを押さえるヴィラに目もくれずにリュイに目を向けたルランは溜め
息をついた。
「君が、ルランか?」
「名前はリュイから聞いているのか?」
 敬語を使う必要はないと判断したらしい。そう聞くとアランはふっと笑った。力強い笑
みだ。微かにヴィラが紅くなっている。
「ああ。ルランとヴィラだと。主に狩りの仕事をするのはルランだと聞いている。それな
りの腕を」
 そこまで言わせて無音で銃を抜いて眼前に突きつけた。表情には出ていないが怒ってい
るらしい。
「なめんじゃねえよ」
 低い声にリュイも色を失っているとアランは目にも留まらぬ速さで掌底を繰り出したが
銃をしまってひらりとよけルランはアランの肋骨と腹の合わせ目の辺りに手刀を突きつけ
た。
「ああ、背が足りなかったな」
 そう耳元でさらりと言うと元の位置に立ってルランより少し背が高いアランを見上げた。
「まあまあ」
 引きつった顔でそういうしかないリュイは内心ルランの実力に舌を巻いていた。ここま
でできるとは、と思っているとアランは一つ溜め息をついて少し鋭い視線をルランに向け
た。
「やるな」
「ほんの数ヶ月前まで旅で狩りをしていたからな。なめられちゃ困る」
 それを言いたかったらしい。体からふっと力を抜いて壁に背を預けた。もう興味がない
というように大きな欠伸をしてヴィラに目を向けた。
「お守は、この図体ばかりでかい馬鹿だよ」
「ふん、そうかい」
 そういうとアランは肩をすくめた。殺伐とした雰囲気にどうしたものかとリュイが思っ
ていると、何も知らないできたらしいレオが二人を見合わせて首を傾げた。
「ずいぶんと年上選んだなあ」
「は?」
 レオの言葉にその場で瞬時に理解したリュイは頭を抱えてしゃがみこんだ。いわれた当
本人達はぱっくりと口を開いて首を傾げている。ヴィラは意味がわからないようで目を瞬
かせている。
 それを見てレオはわざとらしく首を傾げて含み笑いを浮かべた。
「あれ、見合い話じゃないの?」
 その言葉にふいたのはヴィラだった。それを聞いてか、同じ瞬間の反応でたまった苛立
ちを晴らすようにヴィラの横腹とすねに二人の鋭い拳とかかとが飛んで来た。
「あーあ」
 痛みでもんどりうっているヴィラを見て、なす術もなくリュイはジト目でレオを見た。
「あんな事言ったら犠牲者が……」
「でも、聖堂内に殺気振りまかれちゃあ困るじゃん。ロホも結構表情変えてたぜ?」
 そこまでの殺気を振りまいていたらしい。ロホの執務室からここまでかなり離れている。
おそらく歩いて五分は掛かるだろう。そんなところまで殺気を漂わせる二人に顔を引きつ
らせているとルランがもんどりうっているヴィラを放っておいて部屋の中に入ろうとした。
「あ、そうそう」
 その言葉で引き止めてルランを見るとリュイは確信犯的な笑みを浮かべて小首を傾げた。
「早速、今日の依頼入れちゃったんだけどいける?」
「無理だ」
 ばたんと閉めたルランにリュイはやっぱりかと頭を掻いてレオをみた。
「まあ、そんなこといったってあいつは行くだろ。出発の準備、して来な。歩いて一日ぐ
らいだからちょうどつく頃には夜になっているだろうよ」
 その言葉でお開きにさせてまだもんどりうっているヴィラを助けてやるとリュイはご立
腹のルランがいる部屋にヴィラを放り込んだ。
「貴方も鬼ですね」
「お前に言われたかない、確信犯の腹黒」
「やだなー、そんな人聞きの悪い。品行の悪いのはどっちですか?」
 その言葉に黙るとレオは煙草を取り出して火をつけてどこかに行こうとした。
「あ、逃げるな」
「べっつにー、仕事だよ仕事」
 そういうとレオは廊下を抜けてどこかに消えた。あっという間にその背が人ごみにきえ
る。
「まったく」
 溜め息混じりに部屋の扉を一瞥してリュイはレオと同じ方向に行ってレオの背を追いか
けた。


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