翌日から、副助祭としての日々がはじまった。といってもただの雑用係で、神官服を着
ているもののまだ叙階を済ましていない故に教会内で小さくなってくるくるとまめに働い
ていた。
「よくはたらいてんなあ」
 その様子を見てかレオが目を瞬かせながらつぶやいた。リュイが溜め息混じりに呆れた
顔でレオを見た。それを両手に荷物を持ったルランが首を傾げて足を止め二人をみている。
「最初のうちはきちんとしないとね。そうじゃないとお前みたくなんだよ」
「どういうことだよ?」
 首を傾げた聞くまでもなかったなと内心顔をしかめた。リュイはルランを見て含み笑い
を浮かべた。
「こいつ態度悪いから老中てか、司祭サマたちの風当たりが悪いんだ」
「へえ。自業自得だな」
 きっぱり言ったルランにリュイは苦笑してその通りと頷き入り口のほうから入ってきた
ヴィラに視線を移した。なぜか焦った表情を浮かべている。ルランが荷物を足元に置いて
首を傾げた。
「リュイ、外で暴れてる人たちいるからどうにかしてって門番の人が」
「あ? またかよ、あの婆」
 返事をしたのはレオで舌打ちしながら外に出て行く。ヴィラがその後を追って、リュイ
とルランは顔を見合わせてその後を追った。外には確かに老女がなにやら喚いている。
 もはや言葉になっていない叫びに人々は遠巻きにそれを見守って、門の近くで暴れてい
る老女を門番が押さえつけている。
「なにやってんだ?」
「あのおばあさんボケが来ちゃってるみたいで」
 レオが出て行って片腕で老女を抱えてどこかに連れて行った。しばらくして帰ってきた
レオの顔には疲労が浮かんでいた。
「大変だな、お前も」
「なら手伝えってーの」
 何をしたか見当もつかないヴィラとルランは首を傾げて顔を見合わせた。
「まあ、これが日常だな」
「へえ」
 ひと段落着いたのか落ち着きを取り戻した門の辺りでそうまとめた声に一息つくとルラ
ンはふっと呼ばれたような気がして建物に目を向けると部屋からロホが手を振っていた。
「ちょ」
 あまりにも子供過ぎる行動に言葉を失っていると門の外から子供達がはしゃぐ声が聞こ
えた。
「おじさーん」
 喜色に満ちた子供の無邪気な声にあれっと首を傾げると長い髪を一つに結わえたリリア
が何人かの子供を引率して門の中に入ってきた。
「なんだ?」
 首を傾げるとリリアは子供達のはしゃぎように顔をほころばせてなにやら門番に言って
子供を聖堂の中に入れた。
「孤児院の子供達です。月一のペースで聖堂に出入りしたり、暇なとき総大司教様がこち
らを尋ねてきてくれてるんで……。だから、子供達は懐いちゃって……」
「子供好きだもんな。総大司教も」
「ははは、まあ、そうだろうなあ。本来なかった孤児院併設しちまうぐらいだもんな」
 門番も話に混ざってきてかなりにぎやかになった。ルランもその中に入って話を聞いて
いるうちにロホがいかにすごいかを知った。
「へえ、そうなのか」
 その話に混ざっているうちに表情も緩んできて微笑みながらその言葉を聴いていた。
「ルラン君」
 呼び声に振り返るとまた雑用らしい。そういえば荷物置きっぱなしだったなと苦笑して
そのなかから出て仕事に向かって走り出した。その背に向かってレオが馬鹿にしたように
手を振っていた。
 日々は、そんなふうに過ぎていった。旅をやめて、聖堂に入って、二週間ほどがあっと
言う間に過ぎた。ようやく叙階してもらい副助祭に上がりそれから一ヶ月ほどで、ヴィラ
と二人での仕事振りを評価してもらったらしい、短い期間で助祭まで駆け上がったのだっ
た。



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